長崎地方裁判所佐世保支部 昭和54年(ワ)9号 判決 1980年2月26日
原告(反訴被告)
加茂寛
ほか一名
被告(反訴原告)
西肥自動車株式会社
主文
昭和五三年六月二八日午後六時二〇分頃、長崎県佐世保市大塔町一九五九番地先路上において発生した、原告(反訴被告)西川隆則運転の普通乗用自動車(八佐世保あ五七六〇号)と被告(反訴原告)所有のバス(長崎二二か四四一号)との衝突事故に基づき、原告ら(反訴被告ら)が各自被告(反訴原告)に対して負担する損害賠償債務額は、金五〇万五、八四〇円及びこれに対する昭和五四年一月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員をこえて存在しないことを確認する。
原告ら(反訴被告ら)は被告(反訴原告)に対し、各自金五〇万五、八四〇円及びこれに対する昭和五四年一月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告ら(反訴被告ら)の被告(反訴原告)に対するその余の本訴請求及び被告(反訴原告)の原告ら(反訴被告ら)に対するその余の反訴請求を棄却する。
訴訟費用は本訴反訴を通じこれを五分し、その三を原告ら(反訴被告ら)の、その余を被告(反訴原告)の各負担とする。
この判決の第二項は仮に執行することができる。
事実
原告ら(反訴被告ら、以下原告らという。)訴訟代理人は、本訴につき、「昭和五三年六月二八日午後六時二〇分頃、長崎県佐世保市大塔町一九五九番地先路上において発生した、原告西川隆則(反訴被告、以下原告西川という。)運転の普通乗用自動車(八佐世保あ五七六〇号、以下原告車という。)と被告(反訴原告、以下被告という。)所有のバス(長崎二二か四四一号、以下被告車という。)との衝突事故に基づき、原告らが各自被告に対して負担する損害賠償債務額は金四一万八、九〇〇円をこえて存在しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を、反訴につき、「被告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め被告訴訟代理人は、本訴につき、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を、反訴につき、「原告らは被告に対し、各自金六一万九、三八二円及びこれに対する昭和五四年一月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
原告訴訟代理人は、本訴請求原因並びに反訴に対する答弁等として、次のように述べた。
一 原告加茂寛(反訴被告、以下原告加茂という。)は自動車の販売修理を業とするものであり、原告西川はその従業員である。
二 原告西川は、昭和五三年六月二八日午後六時二〇分頃、原告加茂所有の原告車を同原告の業務の執行として運転中、長崎県佐世保市大塔町一、九五九番地先路上において、原告車右前部を被告車右前部に衝突させ(以下本件事故という。)、これにより被告車は右前部が破損した。
三 本件事故は、原告西川の運転上の過失により発生したものであるから、原告西川は不法行為者として、また、本件事故は、原告加茂の従業員である原告西川が原告加茂の業務執行中に発生したものであるから、原告加茂は使用者として、各自被告に対し、被告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任がある。
四 しかるところ、被告は原告らに対し、被告車の右前部の破損の修理費として金四六万三、六四〇円を要したと主張し、そのほかさらに代車運行回送料として金二万〇、八八〇円、損害迷惑料として金一二万九、八〇〇円の損害を蒙つたと主張して、右各金員の支払を請求している。
五 原告らは、被告が被告車の右前部の修理費を要したことは認めるが、その額は金四一万八、九〇〇円である。その余の被告主張の損害額は争う。
六 よつて原告らは被告に対し、本件事故に基づき原告らが各自被告に対して負担する損害賠償債務は金四一万八、九〇〇円をこえて存在しないとの確認を求める。
被告訴訟代理人は、本訴に対する答弁並びに反訴請求原因等として、次のように述べた。
一 原告ら主張一ないし三の各事実はすべて認める。
二 被告が原告らに対し、原告ら主張四の各金員の支払を請求したことは認める。
三 被告が本件事故により蒙つた損害は、修理費のみにとどまるものではなく、その額も原告主張の金四一万八、九〇〇円にとどまるものではない。その内訳は次のとおりである。
1 修理費用 金四七万五、三一〇円
2 人件費 金一万九、六〇〇円
本件事故による事務員(一名)、運転士(三名)の時間外労働手当及び出張旅費
3 通信費 金四二〇円
4 自家用車燃料代 金五、〇一〇円
本件事故現場立会、乗務員送迎、被害者見舞等に自家用車を利用したが、これに要した燃料代
5 見舞品代 金五、五〇〇円
被告車(バス)乗客負傷者二名に対する分
6 休車損 金一一万三、五四二円
被告の昭和五二年度一車一日当りの収益金五、一六一円に被告車の修理日数二二日を乗じたもの
(なお、もし右休車損が認められないとすれば、被告は次のとおり主張する。すなわち、およそ乗合バスは無事故こそ至上命令であり、事故発生は、それがバス自体に責任がなく、本件事故のように相手方車に全面的に責任がある場合であつても、バス事故として事故に遭遇すること自体バス会社の信用、社会的評価を損うものである。そうすると、被告は本件事故により被告の信用、社会的評価を損われたものといわなければならず、右金一一万三、五四二円と同額の損害を蒙つた。)
以上合計金六一万九、三八二円
四 よつて被告は原告らに対し、各自右損害金六一万九、三八二円及び本件反訴状送達の日の翌日である昭和五四年一月二六日から支払ずみまでも民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。〔証拠関係略〕
理由
本訴並びに反訴につき、
一 原告加茂は自動車の販売、修理を業とするものであり、被告西川はその従業員であること、
二 昭和五三年六月二八日午後六時二〇分頃、長崎県佐世保市大塔町一九五九番地先路上において発生した本件事故により、被告車は右前部が破損したこと、
三 原告西川は不法行為者として、原告加茂は使用者として、各自被告に対し、被告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償する義務があること、
以上の事実は当事者間に争いがない。
四 そこで被告が本件事故により蒙つた損害額につき判断する。
1 証人金丸一夫(第一回)の証言により真正により成立したと認める乙第一号証の一ないし三及び右証人金丸一夫(第一、二回)の証言を総合すれば、被告(バスを使用して旅客運送の業務を営む会社である。)は、被告車の修理費用(本件事故現場から被告の整備工場までの被告車の回送費用を含む。)を、当初金四六万三、六四〇円と見積つていた(以下本件見積という。)が、右整備工場で被告車を修理したところ、実際に要した費用(右回送費用を含む。)は金四七万五、三一〇円であつたことが認められる。
ところで原告らは、被告が要した修理費用は金四一万八、九〇〇円であると主張し、証人山口守弘の証言により真正に成立したと認める甲第一号証の一ないし三及び右証人山口守弘の証言によれば、アジヤスターとして事故車の損害額を査定する業務に従事している山口守弘は、被告車の修理費用(右回送費用を含む。)を金四一万八、九〇〇円と査定した(以下本件査定という。)ことが認められる。
そこで、被告が被告車の修理に実際に要した費用(右回送費用を含む。)及び本件査定の各当否について検討するに、前掲甲第一号証の一ないし三、同乙第一号証の一ないし三、証人金丸一夫(第二回)の証言により真正に成立したと認める乙第五号証の一ないし三、証人山口守弘、同金丸一夫(第一、二回)の各証言を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 本件見積と本件査定との間には、修理を必要とする箇所並びに修理に必要とされる部品及びその単価については、極端な相違はなく、ただ修理に要する時間について差異があり、本件見積は本件査定より作業時間を多く見積つていること、
(2) 山口守弘は、一般的な基準に基づいて本件査定をしたこと、
(3) 被告は、バス会社として一般乗客の安全を確保するため、被告車のかなり綿密な検査及び修理を要することを前提にして本件見積をしたこと、
(4) 本件見積による作業時間は、社団法人日本自動車整備振興会連合会作成にかかる自動車整備の標準作業時間と比較しても、過大なものではないこと、
(5) 被告は従来から事故等による被告所有の破損車両の修理については、被告の整備工場でしているが、右整備工場は伝統的に優秀な技術を備えていること、
(6) 被告が被告車の修理に実際に要した費用は、本件見積を金一万一六七〇円こえているが、これは修理の過程において新に修理を必要とする箇所が発見されたからであつて、右実際に要した修理費用に、本件事故に基づく損傷部分の修理と関係のない修理は全く含まれていないこと、
右のとおり認定される。右認定の各事実を総合して判断すれば、被告が被告車の修理に実際に要した費用金四七万五、三一〇円は適正妥当な額というべきであり、これに反する本件査定は採用できない。
2 証人原口万壽男の証言により真正に成立したと認める乙第二及び第三号証、右証人原口万壽男の証言によれば、被告は、本件事故により、次の支出を余儀なくされたことが認められる。
(1) 人件費 金一万九、六〇〇円
本件事故直後のあと始末(本件事故翌日の乗務員の勤務変更及び配車の変更等の手配、本件事故現場検証に立会つたため帰りが遅くなつた被告車の運転手の送迎、被告車の乗客運送のための代車運転)のため時間外勤務(本件事故当日、現場検証に立会うことを余儀なくされる等して、帰りが遅くなつた被告車の運転手の時間外勤務を含む。)をした被告の事務員(一名)及び運転手(三名)に支払つた時間外労働手当合計金一万六、四〇〇円
本件事故により負傷した被告車の乗客二名の状況について原告加茂に連絡するとともに、右負傷者と原告加茂との間の示談契約を早急に成立させるべく、原告加茂方を二度にわたり訪れた被告の長崎営業所長に支払つた出張旅費合計金三、二〇〇円
(2) 通信費 金四二〇円
前記二名の負傷者との電話連絡及びその負傷状況等について原告加茂に電話連絡した際の電話料
(3) 自家用車燃料代 金五、〇一〇円
本件事故当日の被告車の運転手の送迎、前記二名の負傷者の見舞、右各負傷者の状況について原告加茂に連絡するとともに、右各負傷者と原告加茂との間の示談交渉を促進するため原告加茂方を訪れる等のため使用した自家用車の燃料代
(4) 見舞品代 金五、五〇〇円
前記負傷者二名に対する見舞品代
3 被告は、休車損として金一一万三、五四二円の損害を蒙つたと主張するので、検討するに、証人久家泰之(第一回)の証言によつて真正に成立したと認める乙第四号証、及び右証人久家泰之(第一、二回)の証言によれば、被告は被告車の修理に二二日間を要し、その間被告は被告車を使用することができなかつたことが認められる。しかしながら、右期間他に遊休車または予備車がなければ休車損が生ずることになるが、本件事故当時被告に遊休車または予備車がなかつたことの主張立証はない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、右休車損に関する被告の主張は失当である。
なお、被告は右休車損が認められないとすれば、およそ乗合バスは無事故こそ至上命令であり、事故発生は、それがバス自体に責任がなく、本件事故のように相手方車に全面的に責任がある場合であつても、バス事故として事故に遭遇すること自体バス会社の信用、社会的評価を損うものであり、被告は本件事故により被告の信用、社会的評価を損われ、右休車損に相当する金一一万三、五四二円の損害を蒙つたと主張するが、如何に乗合バスが無事故を至上命令とするといつても、本件事故のように、相手方車の一方的過失により生じた事故の場合でも、なおバス会社の信用、社会的評価が損われるとする被告の右主張はにわかに首肯できず、ほかに本件事故により被告の信用、社会的評価が損われたことの立証はない。
五 以上の事実によれば、被告が本件事故により蒙つた損害は金五〇万五、八四〇円であることが明らかである。したがつて、原告らの本訴請求は、本件事故に基づく損害賠償債務が金五〇万五、八四〇円及びこれに対する本件反訴状が原告らに送達された日の翌日であることが記録上明らかである昭和五四年一月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をこえて存在しないことの確認を求める限度で正当であるが、その余の部分は失当として棄却し、被告の反訴請求は右金五〇万五、八四〇円及びこれに対する右昭和五四年一月二六日から支払ずみまで右五分の割合による損害金の支払を求める限度でこれを正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 桑江好謙)